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体外受精法での受精障害についての医師、培養士間の認識の違い

初めて体外受精(cIVF)を経験される患者様の場合、同じパートナーとの間で自然妊娠や人工受精での妊娠歴があれば、ある程度受精卵が得られるだろうと予測できますが、妊娠歴がない方の初めてのトライアルの時にはどうしても不安な気持ちになります。当然、多くの卵子(当院の規定では8個以上)が得られた場合には、体外受精と顕微授精の両方の媒精方法を行うSplit ICSIを施行しますが、採卵数が少なく、体外受精のみを行うことになった場合には患者様ご自身だけでなく我々胚培養士も不安な気持ちが強くなります。採卵翌日に全ての卵子に受精の兆候(前核形成)が見られなかった場合、先生方は精子が卵子の中に入れなかったのだな、そしてその原因は精子の能力に問題があるだろうけれど、もしかすると卵子の透明帯などに問題があることも考えられるな、とお考えになる傾向が高いように思います。
私の経験上、上記のような原因のケースにもまれに遭遇しますが、一番多いのは卵子が未熟だったということのように思います。低刺激周期の場合には採取された卵細胞の核成熟具合を一つ一つ見ていけばいいのでしょうが、採卵数が多くなるとなかなか時間的に不可能な場合もあると思います。GV卵は卵丘細胞の膨化の状態から大体判断できますが、まれに分かりにくいこともあり、GVBDを起こした後の未熟卵では判断しづらいことが多いように思えます。これら未熟卵を体外受精すると精子は卵子内に侵入しますが、前核形成されません。しかも表層反応が不十分なため、一つの卵子内に場合によっては5個も6個も精子が侵入してしまうこともあります。そのうえ、採卵日の翌日には卵細胞は核成熟を完了していることも多く、受精障害の原因を誤ってしまう原因の一つといえると思われます。レスキューICSI施行のいかんにかかわらず、やはり媒精後6時間程度で卵丘細胞を除去し、極体の数をしっかり確認しておいた方がよいように思います。