人工授精法(AIHまたはIUI)/ Artificial Insemination

人工授精とは

人工授精というとかなり大袈裟な方法に聞こえますが、その方法はごく簡単なものです。
採取した精液を濃縮処理し、それを細いチューブで子宮の内腔に注入するものです。
海外では一般に子宮腔内精子注入法(Intrauterine Insemination(IUI))と呼ばれます。
日本では従来より人工授精法(Artificial Insemination with Husband's Semen(AIH))と呼ばれています。

AIHはどんな不妊症例の場合に行われるのでしょうか?

精子所見に異常がある場合

精子数15×106以下、運動率50%以下の乏精子症や精子無力症のある場合には精液を濃縮して妊娠に必要な精子を確保します。

性交後試験(フーナー試験)が不良の場合

通常の性交で腟内に射精された精子は子宮の入口付近(子宮頚管)から分泌される頚管粘液の中を泳いで子宮内に入ります。
しかし頚管粘液が極端に少なかったり、粘液の粘調性が高かったりすると腟内の精子は粘液の中に入れません。 このような例では細いチューブで直接精子を子宮腔内に注入してあげます。

性交障害のある方

勃起が不完全で性交が困難な方あるいは勃起が可能で性交できても膣内では射精できない方にもマスターベーションで精子が採れればAIHが可能です。
最近ではこのような性機能障害に加え、何らかの原因でsexそのものをしない、いわゆるsexlessのご夫婦も増えていますが、このようなカップルにも有効です。

原因不明不妊の方

一般的な不妊症の検査で特に不妊原因を見出せない原因不明不妊の方にもしばしば行われます。

AIHの具体的方法

AIH実施前の検査

夫婦の性感染症のチェックとして事前に妻のクラミジア検査、夫婦の梅毒検査、B型、C型肝炎ウィルス、エイズ検査を1回の採血で行います。

AIHのタイミング

AIHの理想的なタイミングはもちろん排卵日です。
排卵日をあらかじめ予想する方法としては、予想される排卵日の少し前に超音波検査を行ない、卵胞の大きさから予測する方法が一般的です。
さらに厳密に排卵日をしぼるには排卵の直前にピークとなるLHを尿で測る方法(checker)もあります。
しかしAIHの実施日がぴったり排卵日と一致しないと妊娠しないわけではなく、排卵の前日あるいは一日後でも効果は期待できます。

精液の採取

AIHの当日の朝、自宅あるいはクリニックでマスターベーションにてあらかじめ渡してある容器に精液を採っていただきます。それを奥様が持参して来院していただきます。

精液の処理

採取した精液の中から運動が良好な精子を回収するためにPercoll攪拌連続密度勾配法という方法を用います。
この方法は運動良好な精子を回収するためだけでなく精液に混じった細菌や赤血球、白血球をとり除く目的もあります。

AIHの方法

先に述べたように処理した精液0.5mlを細いチューブに吸引し子宮口から子宮腔内に注入します。注入に要する時間は2~3分で、特に痛みなどの苦痛はありません。
その後、特に安静にする必要はなく、日常生活は通常通りに可能です。

AIHではどのくらいで妊娠しますか?

AIHをうける患者様の年齢や精子の状況により異なりますが、大まかにいってAIHを受けた患者様の20%前後が妊娠します。
もちろん1回で全ての方が妊娠するわけではなく、何回か試みた結果です。
つまり100人の方がAIHを1回あるいは数回行って最終的には妊娠する方は20人くらいということです。
1回あたりの妊娠率は約6~8%くらいです。

AIHは何回くらい行って次のステップに移行(ステップアップ)しますか?

下記の図は、AIHで妊娠された方68人が何回目のAIHで妊娠したかを調査した結果です。
その結果、1回目でされた方は47%と最も多く、2回目で23.5%、3回目では11.8%、4回目では13.2%でした。
つまりAIHで妊娠された方の95.6%は4回目以内で妊娠しています。
5回目以降では妊娠率が低下します。
このようなことからAIHを4~5回くらい行っても妊娠しない場合にはそろそろ次のステップアップ(体外受精)した方がよいと考えられます。

妊娠例の累積妊娠率(68症例・何回目のAIHで妊娠するか)