胚凍結・融解移植法

胚凍結

なぜ胚を凍結するか?

従来、我が国では体外受精あるいは顕微授精で受精した胚を培養し、培養3日目の胚初期胚あるいは5日目の胚盤胞で子宮に移植していました。(新鮮胚移植)
しかし約10年前位前から胚盤胞では新鮮胚移植より凍結胚移植の方が着床率(妊娠率)が高いということが分かってきました。
この理由は凍結すると胚の質が良くなる訳ではありません。
先に述べた排卵誘導剤を投与して卵巣刺激すると卵巣から多くの卵巣ホルモン(卵胞ホルモン)が分泌されます。この自然では起こり得ない高卵胞ホルモン状態が、採卵した後の子宮内膜の着床環境を悪くすることが分かってきました。
そのような理由から採卵した周期で得た新鮮胚をあえて移植しないで一旦凍結して保存しておき、採卵した次の周期以降に、より自然なあるいは自然に近いホルモン環境で移植します。これが胚を凍結保存する大きな理由です。
図12は2017年における日本の移植ステージ別⦅3日目の新鮮初期胚(青バー)、3日目の凍結初期胚(グリーンバー)、5日目の新鮮胚盤胞(赤バー)と凍結胚盤胞(紫バー)⦆と年齢別移植あたりの妊娠率を示しています。
(縦軸:妊娠率 横軸:年齢)

移植ステージ別・年齢別の移植あたり妊娠率
図12
このグラフから明らかになるようにどの年齢でも紫色の凍結胚盤胞移植の妊娠率が最も高いことが分かります。
このような理由から現在我が国では胚、胚盤胞は一旦全て凍結し、ホルモン状態がより自然な着床に適した環境で移植(Freeze all)することが多くなっています。
その他の理由で凍結する場合もあります。
①移植後余分な胚(余剰胚)が残り、これを使って次の妊娠を期待する。
②卵巣過剰刺激症候群(OHSS)といって卵巣刺激のため卵が多く採取できた後卵巣が腫れる事があります。このような場合、新鮮胚を移植して妊娠するとOHSSが加速しますので、胚を全て凍結し移植を見送ります。

胚の凍結保存法

胚の凍結技術は近年急速に進歩したことにより、安全で確実な凍結法が確立されております。
ガラス化法という方法です。胚に損傷を与えないで、かつ迅速に凍結保存することが可能になりました。
胚は図13に示したような液体窒素のタンク内で長時間保存が可能です。

胚の凍結保存法
図13
どんな胚から生まれてきた子が多いか?

図14は日本全体のARTで生まれてきた児の卵のルーツを年別に示しております。
縦軸は出生児数、横軸は西暦です。
下段青バーは体外授精→新鮮胚移植で妊娠、出産した子です。
中段赤バーは顕微受精→新鮮胚移植で妊娠、出産した子の数です。
上段グリーンは体外授精や顕微授精で受精した胚、あるいは胚盤胞を一旦凍結し、その後の月経周期で胚を融解し、胚移植を行ない妊娠し出産した子の数です。
一目で分かるように凍結胚移植で妊娠し出産した子の数が年々、それも圧倒的に増えています。このような理由から胚を一旦凍結し着床に適した子宮内膜環境下で移植する方法が主流となっています。当クリニックも同様です。

年別 治療周期
図14

胚移植法

現在我が国での移植法のほとんどは胚凍結→融解胚移植で行っておりますので、以下移植法は凍結胚移植について述べます。
移植胚数はいくつまで可能か?
我が国では移植胚数は原則1個と決められています。これは多数個移植すると多胎妊娠が増えるということと、1個移植しても2個もどしても妊娠率に大きな差がないという事実に基づいたものです。 しかし年齢が高い人や何回か移植しても妊娠に至らない例などには複数個(ほとんどは2個まで)移植することも容認されています。
移植のための準備(ホルモン補充法)

子宮の内腔に注入(移植)された胚が子宮内膜に着床して妊娠するには、子宮内膜が充分着床に適した環境にあることが必要です。 この着床可能な環境は主に卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の両女性ホルモンにより形成されます。

①ホルモン補充周期による移植(HR-FET)

ホルモン薬を補充し、子宮内膜が着床に適した環境を作り胚を移植する方法がホルモン補充周期下の胚移植です(Hormone Replacement Embryo Tranfer)(HI-FET)
図15はその詳細です。採卵が終了した後の月経第2日目からエストラーナというパッチをお腹に貼ります。そこから皮膚を通して卵胞ホルモン(エストロゲン)が体内に吸収され、子宮内膜に作用し内膜が充分に増殖します。(厚くなる)
ホルモン補充法による凍結胚移植のスケジュール
図15
子宮内膜が充分に厚くなったことを確認するために1回だけ超音波チェックに来院していただきます。
子宮内膜の厚さが7㎜以上、理想的には8㎜以上になった時点から子宮内膜を分泌化させ着床の環境をつくる黄体ホルモンを含有した腟坐薬が用いられます。
1日2回挿入するタイプと1日3回とがあります。
これらはもちろん患者さん御自身で簡単に安心して行えます。
妊娠が確認されたら、妊娠10週までパッチと膣坐薬を続けます。
本法の利点は月経になればその日のうちに移植日を予定することができます。図15のように3日目の初期胚移植では月経開始17日目、5日目の胚盤胞では19日目に移植が予定できます。

もしこの日が都合が悪ければパッチ剤の日を少し延長することにより、移植日を多少移動出来ることも働く女性には優しい方法です。

②自然周期での胚移植

採卵した次の周期に、自然排卵した3日後に初期胚を、5日目に胚盤胞を移植する方法です。シンプルな方法ですが、いつ排卵日かを知るために何回か超音波検査を必要とすることがやや煩雑です。一方妊娠した後ホルモン補充の必要がないところが大きな利点です。 HR-FETと自然周期の間に妊娠率の差はないとされていますが、仕事で忙しい方にはあらかじめ移植日が2週間以上前から予定できるHR-FETが好評です。

胚移植の実際
移植といえば肝臓移植とか、腎移植とか大がかりな手術を思い浮かべますが、胚移植はそんな大げさなものではありません。
簡単に言えば既に凍結保存してある胚の一つを移植の朝、解凍し卵細胞が卵の殻(透明帯)から脱出(ハッチング)しやすいように透明帯の一部に切開を入れます。
これをアシステッドハッチングといいます。午後の移植直前まで培養します。
移植には図16に示したように胚を細いチューブの先端に培養液と一緒に吸い込み、子宮の入り口(外子宮口)からそっと子宮腔内に挿入します。そしてチューブの先端が子宮の一番頂点(子宮底)の1cm手前にきたら、チューブの根本からフラッシュすると、培養液と一緒に胚が子宮腔に移行します。
ですから、胚移植といっても実際は胚送り込みと言えます。要する時間は約5~10分くらいです。痛みはありません。
移植終了後は20~30分間ベッドにて安静にした後、もちろん歩いて帰宅できます。
当院では通常午後3時~4時の時間帯に行っています。
胚移植
図16
胚はいつまで保存が可能か?
いくつか凍結保存した胚で妊娠が成功した場合は胚が残ります。(余剰胚)
一人目が生まれた後1~2年後に余剰胚で2人目をもうけている事も充分可能で、理論的には永久に保存も可能です。しかし使用予定していない胚を長期に保管することは無駄なコストが発生します。

このような事情から胚の保存については次のようにあらかじめ取り決めています。

1)保管延長の手続き

①保管開始から1年間は保管可能です。もし保管を延長したい場合は保管期限の2ヶ月前から保管期限の間に保管延長の手続きをしてください。
あらかじめお渡ししてある書類(更新用)にサインの上、来院していただきます。

胚の凍結保存の手続きについて
(1年経過しても更新の手続きが完了していない場合は継続保存の希望はないと判断し廃棄させていただきます)
②廃棄したい場合
妊娠に成功し、それ以上児を望まないなどの理由で余剰胚が不必要になった場合はあらかじめお渡ししてある書類に(廃棄用の)御夫婦のサインをした上、クリニック宛てに返送してください。来院する必要はありません。