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卵子凍結、今の私には必要?後編

卵子凍結、今の私には必要?

― 35歳からの現実を踏まえて、未来の自分に説明できる選択を ―


〈卵子凍結を決めた人へ〉



前回は、卵子凍結をやるか・やらないかでを悩んでいる人に向けた記事を投稿しました。

*詳しくは、前回のブログも参考に。
卵子凍結、今の私には必要?
― 35歳からの現実を踏まえて…やる?やらない? ―



卵子凍結を決めたあとに、「そんなこと知らなかった」とならないように、
また次の判断につなげるため 、ぜひ知っておいてほしい2点をお伝えします。

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①30代後半では、卵巣の反応はが穏やかになる一方で、採れる卵子数は限られてくる

30代後半は、20代と比べて卵巣機能が徐々に低下していきます。

ホルモン刺激に対する反応は、20代ほど強く出ることは少なくなり、一時的な副作用であるOHSS(卵巣過剰刺激症候群)のリスクが一般的には下がる傾向にあります。

一方で、この年代で知っておいてほしいのは、
1回の採卵で得られる卵子の数が少なくなる可能性です。

そのため、
・複数回の採卵が必要になることがある
・思っていたほど数が確保できない場合もある

というのが現実です。

30代後半の卵子凍結は、
「今ある条件の中で、どこまで確率を残せるか」を考える選択と言えるかもしれません。
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②使う時期が近いからこそ、時間とお金の意味が変わる

30代後半で卵子凍結を行った場合、実際にその卵子を使う可能性があるのは、実際の妊娠を目指すのが40代前半以降というケースが多くなります。

20代で凍結する場合と比べて、10年以上長期保管することは少なく、
「使うかどうかの判断が、比較的早く訪れる」というのが特徴です。

費用としては、
・採卵・凍結の初期費用 30〜70万
・年間保管料 ※ 5〜10万円前後
・1回で目標の卵子数を得られなかった場合の再度採卵費用 10~70万
がかかります。

(※ 保管料には、採取した卵子を一定の超低温、24時間体制で厳重に管理する費用が含まれます。)


保管期間が数年であれば、
総額はある程度見通しを立てやすい一方で、「この数年でどう使う可能性があるか」
を具体的に考える必要があります。

この費用を「将来の妊娠の可能性を残すための投資」と考える方もいれば、
「今すぐ妊娠を目指す方が現実的」と考える方もいます。

どちらが正解、という話ではありません。

ただ30代後半では、
卵子凍結は「いつかのための保険」というより、
「近い未来の選択肢を整理する手段」
としての意味合いが強くなります。
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30代後半の方へ、産婦人科医として伝えたいこと

30代後半で卵子凍結を考えることは、決して遅すぎる判断ではありません。

一方で、
「とりあえず凍結しておけば安心」という選択でもありません。

大切なのは、
・今の体の状態
・使う可能性がある時期
・時間とお金をどう使いたいか

これらを一度きちんと整理した上で、
自分の人生に合った選択をすることだと思っています。
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【補足】東京都の助成制度が始まったことで、迷いが増えた方へ

東京都の卵子凍結助成制度が始まり、
「今やった方がいいのでは?」
と感じた方も多いと思います。

* 卵子凍結について(東京都福祉局)はこちら
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/shussan/ranshitouketsu

助成があること自体は、
選択肢が広がったという意味で、とても良いことです。

ただし、制度がある=全員が今すぐやるべき という意味ではありません。
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■ 助成制度が“後押しになる人”

・35歳前後〜後半
・将来子どもを望む気持ちはある
・ただ今は、妊娠の予定が立てられない

こういった方この場合にとって、
費用面のハードルが下がったことで、現実的な選択肢になる
ことそれは自然な流れでしょうす。
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■ 助成制度があっても、急がなくていい人

・20代〜30代前半
・数年以内に妊娠を考えている
・まだ自分の体の状態を知らない

こういった方のこの場合は、まず
「私は妊娠に関して、私の体は 今どんな状態?」
を知ることの方が、ずっと大切です。
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■ 医師として伝えたいこと

制度は、「使うためにある」ものではなく「将来の選択肢を増やすため」に選べるようにするためにあります。

助成があるから決めるのではなく
助成があってもなくても自分の人生に卵子凍結という選択肢は 合っているかで判断してほしいと思っています。
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最後に

卵子凍結は、
人生を思い通りにコントロールするためのものではありません。
また、将来を完璧に保証してくれる方法でも、
年齢の影響をなかったことにする魔法でもありません。

それでも、
「何も考えずに時間だけが過ぎていった」のではなく、
あの時、自分なりに考え、情報を集め、、選択をした
――そう言える未来を残すための手段です。

選ばなくてもいい。
途中で立ち止まってもいい。

大切なのは、
流れに任せた結果ではなく、
自分の意思で一度は向き合ったという事実です。

卵子凍結は、
人生を縛る決断ではなく、
未来の自分に「選択肢」と「余白」を手渡す準備。

そのカードを持つかどうかを決めるのは、いつも、今のあなたです。